ChatGPTに懲戒解雇について聞いてみた
2023年4月24日
弁護士 松田直弘
教育現場で使う事の是非だとか,地方自治体の行政の現場で使う事にしたとか,別の自治体は禁止したとか,何かと今話題のChatGPTに法律相談したら,何と答えてくれるのか,興味があったので聞いてみました。
質問1
最初の質問は,次のとおりです。
日本にある会社です。従業員が会社の金を使い込みしました。懲戒解雇にしたいと考えています。できますか。
これに対して,ChatGPTは次のとおり,回答してくれました。
会社が従業員に対して懲戒処分を課すことは、原則として労働法に基づいて行われます。日本の労働法では、従業員が会社の資産を不正に使用することは、業務上の横領として処罰される可能性があります。
従業員が会社の資産を不正に使用した場合、会社は懲戒処分を科すことができます。しかし、懲戒処分については、法的な手続きが必要であり、適切な手順を踏まなければなりません。例えば、会社は、従業員に対して、調査や聴取を行い、適切な懲戒理由があることを確認し、労働法に基づいて懲戒処分を行わなければなりません。
ただし、具体的な事情や契約書の内容などによっては、懲戒処分が適切でない場合もあります。そのため、会社が懲戒処分を科す前に、労働法や契約書などについての専門家の助言を得ることが望ましいでしょう。
最初の段落の,業務上横領として処罰される可能性がある,というのはそのとおりですし,2番目の段落にある,「従業員に対して,調査や聴取を行い」というのも,懲戒手続きにおいては,従業員に聴聞の機会を与えるのが望ましいとされていますので,そのとおりです。
最後は……,弁護士に相談した方がいいですよ,ということですね。
質問2
懲戒処分については,法的な手続きが必要,という事ですので,どのような手続きが必要なのか,聞いてみましょう。
日本における,懲戒解雇にするための法的な手続きについて,教えてください。
日本の労働法において、懲戒解雇をするには、以下のような手続きが必要です。
- 従業員の調査
従業員が違法行為を行ったと疑われる場合、会社はまず、従業員の行為を調査する必要があります。違法行為が確認された場合は、その内容や重大性を詳細に文書化しておく必要があります。
- 従業員への聴取
調査後、従業員に対して聴取を行う必要があります。聴取では、従業員の主張や事情を聞くことができます。また、従業員に対して、違法行為があった場合の懲戒処分の可能性や、従業員自身が提出できる意見書の提出を求める必要があります。
- 懲戒対象行為の評価
従業員の行為が違法であるかどうかを評価する必要があります。その際には、会社のルールや規則、法律などを基準に判断することが重要です。
- 懲戒処分の決定
従業員の行為が違法であったと判断した場合、懲戒処分を決定する必要があります。具体的な懲戒処分は、会社の規定や従業員の違反内容、違反の重大性などを考慮して、適切な処分を決定する必要があります。懲戒処分の種類には、注意、警告、減給、降格、解雇などがあります。
- 従業員への通知
懲戒処分が決定した場合、従業員に対して、その旨を正式に通知する必要があります。通知には、懲戒処分の理由や内容、違反の事実や証拠、処分の種類、不服申し立ての方法などを記載する必要があります。
- 不服申し立ての手続き
従業員が懲戒処分に不服がある場合は、労働委員会や裁判所に不服申し立てをすることができます。会社は、従業員の不服申し立てに
途中で切れてしまいました。無料版で文字数が制限されているのか,別の原因なのか,また調べてみましょう。
それは置いて,懲戒原因となる事案が発生してからの対応についての回答内容としては,正しいと思います。
ただ,そもそも懲戒解雇を処分を含む懲戒処分については,就業規則において,これが「できる」という事を定め,かつその就業規則が周知されていないと懲戒処分できませんので,その点について言及されていないのは,マイナス点かなと思います。特に就業規則が周知されているかどうかについては,訴訟や労働審判となった場合にも争点となります。
質問3
どんな時に懲戒解雇できるのかも,聞いてみました。
日本において,懲戒解雇が有効とされる基準を教えてください。
日本の労働法では、懲戒解雇が有効とされる基準は、以下の通りです。
- 重大な職務上の違反がある場合
従業員が、職務上の義務や規律を重大に違反した場合、懲戒解雇が認められます。例えば、会社の機密情報を漏らしたり、業務中に盗難行為を行ったりするなどの行為が該当します。
- 業務に関する能力・資質に問題がある場合
従業員が、業務に必要な能力や資質に問題がある場合、懲戒解雇が認められます。例えば、仕事のミスが多発し、改善が見られない場合や、常に業務の進捗が遅れている場合が該当します。
- 他の従業員に対する暴力行為・嫌がらせがある場合
従業員が、他の従業員に対して暴力行為や嫌がらせを行った場合、懲戒解雇が認められます。
- 法令違反がある場合
従業員が、法令を重大に違反した場合、懲戒解雇が認められます。例えば、不正経理行為を行った場合や、反社会的勢力との関係がある場合が該当します。
- その他、会社としての信頼関係が損なわれた場合
従業員が、会社としての信頼関係を損なうような行為を行った場合、懲戒解雇が認められます。例えば、社員同士の恋愛関係で問題がある場合や、社員が嘘をついたり、偽装を行った場合が該当します。
以上のような場合に、懲戒解雇が認められることがあります。ただし、懲戒解雇には厳格な手続きが必要であり、会社として正当な理由があることを証明する必要があります。従業員に不当な懲戒処分を与えることは違法ですので、専門家の助言を受けることが望ましいです。
これは,結構ミスリードな回答かなと思います。
まず,労働契約法第15条で懲戒解雇を含む懲戒処分をするにあたっては,
①客観的に合理的な理由があること,
②社会通念上相当であること,
が求められています。ここでは,労働契約関係を解消させる観点からだけでなく,会社の秩序維持の観点から制裁として懲戒解雇を行うことについて,①客観的に合理的な理由があること,②社会通念上相当であること,が求められています。
そのため,「1. 重大な職務上の違反がある場合」,には懲戒解雇できるでしょうが,「3. 他の従業員に対する暴力行為・嫌がらせがある場合」,「4. 法令違反がある場合」,「5. その他、会社としての信頼関係が損なわれた場合」については,程度や場合によっては,懲戒解雇できないだろうと思います。
また,「2. 業務に関する能力・資質に問題がある場合」ですが,これは懲戒解雇の問題ではなく,普通解雇ができるか,できないか,という問題かと思います。普通解雇は,労働契約法16条に定められており,①客観的に合理的な理由があること,②社会通念上相当であること,をクリアする必要があります。
おしまいに
ChatGPTは,これからどんどん進化し,どんどん正確性を増していくのでしょうが,少なくとも現時点では,全てを鵜呑みにするのではなく,ChatGPT自身がいうように,「専門家の助言を受けることが望ましい」ようです。